1974年10月19日に公開された『砂の器』は、松本清張の同名小説を、橋本忍と山田洋次が脚本化した松竹映画です。監督は野村芳太郎、松竹と橋本プロダクションの提携第1作として製作されました。国鉄蒲田操車場で発見された身元不明の遺体をめぐる捜査から始まるこの作品を、今から見るときに知っておきたい制作の背景と、当時の評価を紹介します。
原作の短い挿話を、脚本でどう膨らませたか
監督の野村芳太郎と組んだ橋本忍に、脚本として山田洋次が加わり、原作を映画用に脚色しました。音楽は芥川也寸志が音楽監督を、菅野光亮が作曲を担当し、撮影は川又昻が務めています。
主演は、警視庁の刑事・今西栄太郎役に丹波哲郎、その若手相棒役に森田健作。捜査が接点を持つことになる音楽家・和賀英良役には加藤剛、その父・本浦千代吉役には加藤嘉が扮しています。ほかにも、高木理恵子役の島田陽子、田所佐知子役の山口果林、三木謙一役の緒形拳、桐原小十郎役の笠智衆といった顔ぶれが並び、渥美清が伊勢の映画館支配人役で友情出演しています。
物語は、国鉄蒲田操車場で発見された身元不明の遺体をめぐる殺人事件を、今西たちが「カメダ」という手がかりを頼りに秋田県亀田へと捜査を広げていくところから動き出します。捜査の帰り道、今西たちは音楽家・和賀英良との接点にたどり着きます。地道な聞き込みからひとつの単語が全国に広がっていく前半の展開は、原作が持つ推理小説としての骨格をそのまま映像に落とし込んだ部分です。
当時としては破格だった音楽への投資
この作品でもうひとつ押さえておきたいのが、音楽にかけられた予算の規模です。当時の邦画では音楽費の相場が100万円ほどとされていたのに対し、本作では300万円が投じられました。これは、後に『犬神家の一族』が公開されるまで、邦画でもっとも音楽にお金をかけた作品だったとされる規模です。
タイトルをめぐるエピソードも残っています。橋本忍は当初、劇中曲と同じ『宿命』という題名を考えており、丹波哲郎もこの題名を推していました。しかし最終的に「『砂の器』の方が売りやすい」という橋本自身の判断で、原作どおりの題名に落ち着いています。
製作の経緯にも触れておくと、当初は東宝での映画化が検討されていた時期がありましたが、松竹専属だった野村監督を東宝に出すことへのためらいから話が翻り、最終的に松竹と橋本プロダクションの共同製作という形に決まりました。英語題名は『Castle of Sand』です。上映時間は143分で、配給収入は7億円、1974年の邦画配給収入では3位を記録しています。
音楽の使われ方と、捜査が広がっていく過程に注目する
半世紀以上前の作品を今から見るなら、次の2点を意識すると見え方が変わってきます。
ひとつは、原作の中では簡潔にしか描かれていなかった挿話を、橋本忍と山田洋次がどう脚本として再構成したかという点です。相場の3倍という音楽費が投じられたことからも分かるとおり、脚本と音楽の両方に力を入れて作品の芯を作っている構成になっています。
もうひとつは、「カメダ」という一つの手がかりから、今西たちの捜査が東京から秋田へ、そして音楽家・和賀英良という人物との接点へとつながっていく前半の流れです。派手な展開を追うより、ひとつの言葉がどこまで広がっていくかという捜査劇そのものを楽しみたい人に向いた見せ方になっています。
社会派ミステリーとしての完成度は、公開当時の評価にも表れています。第29回毎日映画コンクールでは、日本映画大賞・脚本賞・監督賞・音楽賞の4部門を受賞しました。あわせて第48回キネマ旬報ベスト・テンでも脚本賞を受賞したほか、ゴールデンアロー賞スタッフ部門、モスクワ国際映画祭審査員特別賞も獲得しています。1989年に文藝春秋が発表した『大アンケートによる日本映画ベスト150』でも13位にランクインするなど、公開から年月を経てもなお、松本清張原作映画の代表的な一本として評価が続いている作品です。
『砂の器』を見られる場所を探すときは
配信サービスで作品名を検索するのが、現在の配信状況を確かめる一番確実な方法です。あるサービスで見当たらなかったとしても、それだけで配信されていないと決めつける必要はありません。ラインアップは随時入れ替わるためです。
配信で見つからない場合は、DVD・ブルーレイの宅配レンタルという選択肢もあります。旧作の在庫を探す方法は、TSUTAYA DISCASの宅配レンタルガイドで紹介しています。



